ベンチャーキャピタルのメリットとリスク|起業初期に向かない理由
ベンチャーキャピタルは起業初期の選択肢ではない:自由と主導権を失わないために
近年、起業の世界では「ベンチャーキャピタル(以下VC)から資金調達を受けること」が当たり前のように語られています。起業家向けメディアやイベントでも、VCから出資を受けて一気に成長するモデルが「王道」として紹介され、あたかもそれが唯一の選択肢かのような雰囲気すらあります。
しかし私は、この風潮に対して疑問を抱かざるを得ません。VCからの資金調達にはたしかに大きなメリットもありますが、最初の起業段階からVCに頼ることには、数多くのリスクとデメリットが存在します。
この記事では、なぜVCをいきなり使うことが危険なのか、そして起業初期において本当に検討すべき資金調達の方法について深く掘り下げていきます。
VCとは何か?銀行融資との違い
VCとは、将来的に成長が期待できる企業に対して、株式を引き換えに資金を提供する投資家のことです。融資ではなく「出資」であるため、返済義務はありません。これは一見すると起業家にとって非常に魅力的に見えます。
一方で、銀行融資は基本的に担保や信用に基づいて資金を貸し出します。こちらは借金であり、返済義務がありますが、株式を渡す必要がありません。つまり、銀行融資は経営権を維持したまま資金調達ができる手段である一方、VCは資金と引き換えに会社の一部を手放すことになるのです。
VCのメリット:スピードと信頼性
まず、VCを利用することのメリットを正しく理解することが重要です。
- 即効性がある:事業プランが魅力的であれば、短期間で数千万〜億単位の資金が入ります。
- 返済義務がない:借金ではないため、金利や返済のプレッシャーがありません。
- ネットワークや支援が期待できる:著名なVCが株主に入ることで、企業としての信頼性が向上します。また、VCが持つ他のスタートアップや業界関係者とのネットワークにアクセスできることもあります。
これらの点は、特にスピード勝負のビジネスモデルにおいては大きな武器になります。
それでもVCを初期から使うべきではない理由
ではなぜ、これほど多くのメリットがあるVCを、起業初期から使うべきではないと考えるのでしょうか?以下に、その理由を段階的に解説します。
1. 持株比率の低下は、あなたの自由を奪う
VCの出資は株式と引き換えに行われます。出資を受けるたびに、起業家の持株比率は下がります。最初は100%保有していた株式が、1回目の出資で80%、2回目で50%、最終的に20%以下になるケースもあります。
この状態になると、いくらあなたが創業者であっても会社の重要な意思決定を自分だけではできなくなります。たとえば、人材採用、資本提携、方向転換、場合によってはあなた自身の報酬や退任の決定すら、株主に握られるのです。
2. 短期的な成長プレッシャーに追い込まれる
VCはリターンを求める存在です。彼らの目的は、出資先の企業がIPOやM&Aを通じて株式を売却し、大きな利益を得ることです。
そのため、短期的な売上の成長や市場シェア拡大を強く要求されることが多くなります。まだプロダクトや事業モデルが不安定な状態でも、VCの期待に応えるために無理な採用やマーケティング施策を行い、会社が崩壊してしまうケースは少なくありません。
3. ビジョンが歪む可能性がある
起業家は、本来「自分の信じる未来」をつくるために会社を起こすものです。しかし、VCの意向が強くなればなるほど、そのビジョンに従って舵を切ることが難しくなります。
「もっと短期で売上を上げろ」「IPOを早めろ」「利益は後回しでいい」など、自分の価値観と異なる経営判断を求められるようになります。
4. 成功の定義がVC依存になる
本来、事業の成功とは「顧客が価値を感じ、持続的に収益が生まれる仕組みを作ること」です。しかしVCの視点では、「IPOやM&Aを通じてキャピタルゲインを得ること」が成功となります。
結果として、企業が売却されてしまい、創業者が早期に離れるというケースも多いのです。これは果たして、起業家が目指していた本当の成功といえるでしょうか?
VCの「出口戦略」に巻き込まれるリスク
特に注意したいのが、VCの「出口戦略」に巻き込まれる点です。VCは通常、5年〜7年のスパンで投資回収を目指しています。そのため、経営陣には明確な「上場スケジュール」や「売却戦略」の提出を求められます。
その時点で、会社がまだ未熟であっても、外部環境が整っていなくても、無理に「出口」を目指すことになります。結果、社員や顧客を置き去りにした経営判断になりやすく、長期的には企業価値の毀損にもつながりかねません。
起業初期は銀行融資+自己資金で始めるべき
以上を踏まえると、起業の最初のフェーズでは、VCに頼るのではなく、自己資金や銀行からの小規模な融資をもとにスタートすべきです。
銀行融資は返済義務こそありますが、株式を手放さずに済みます。また、審査に通るということは、事業計画が一定の合理性を持っていると評価された証でもあります。これは、起業家自身の自信にもつながります。
何より、資金が潤沢でないことで、経営者は「限られたリソースで最大の効果を出す」ための思考が鍛えられます。これは後の成長フェーズでも極めて重要な経営能力です。
VCを使うのは「プロダクトマーケットフィット」後でよい
起業初期は、まず**本当に市場に求められている価値(プロダクトマーケットフィット)**を見極める段階です。この時期に大きな資金を手に入れてしまうと、本質的な課題に向き合う前に「急成長」に目がくらんでしまうことがあります。
自社プロダクトが市場にフィットし、顧客からの継続的な収益が見込める段階になったとき、初めてVCを検討するのが正しい順序です。その段階なら、起業家自身の交渉力も高まっており、不利な条件で株式を手放すリスクも減ります。
結論:VCは選択肢の一つにすぎない。最初の選択ではない。
VCは確かに魅力的な資金調達手段です。しかし、それは「全てを解決してくれる魔法の杖」ではありません。むしろ、自分の会社、自分の時間、自分の信念をどれだけ守れるかを考えたとき、最初からVCに依存するという選択肢は極めて慎重になるべきなのです。
自由と主導権を守り、自分のペースで会社を育てたいのなら、最初は自力で歩き出すべきです。VCは、その歩みが確かなものとなった時に、加速させるための「追い風」として活用すべきなのです。



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